年始の挨拶は年賀状?それともSNS?

印刷

印刷業界の12月のメイン商材は「年賀状」だ。年末はクリスマスもお歳暮も関係なく、何より年賀状の売れ行きが業績を左右するという会社も珍しくない。

それほど、年賀状の市場というのは大きく、儲かる市場なのだ。
考えてみれば、かつては日本人の誰もが年末になると年賀状を作り、送るというのが習慣化されていた。
しかしそれは「数年前まで」という但し書きが必要なのだ。

年々減り続ける年賀はがきの発行枚数

下のグラフを見て欲しい。


画像引用:ガベージニュース

1949年に年賀はがきが発行されてからの発行枚数の推移だが、2003年の44億5900万枚をピークに、急激に年々下がり続けている。

少子高齢化になり、お年寄りが年賀状を出さなくなる一方で子供が減るのだから、年賀はがきの発行も少なくなっていくのは当然と言えば当然だ。

しかし人口の問題だけでなく、看過できないライバルの存在がある。
言わずと知れた、SNSだ。

SNSの急激な台頭は、時代の要請か?

若年層を中心に、年賀はがきを出さない人が急激に増えている。
その代わりに、LINEやTwitter、Facebook、インスタグラムなどのSNSで年始の挨拶をするという人が増えているのだ。

私の身の回りを見ても、年賀状を出さなくなったという人が何人もいる。
昨年いただいた年賀状の中には「来年からの年賀状を辞退させていただきます」という、なんとも寂しい文言が書かれた年賀状も届いた。

元旦にこんな年賀はがきをもらうのは、暗澹たる気分になるのだが、これも時代の流れなのだろうか。
そもそも、年始の挨拶に年賀はがきを送るという習慣を植え付けたのは、郵政である。
1949年以前は、年賀はがきというものが存在しなかったので、郵政が作り出した市場と言えるのだが、今まで日本人の生活習慣の中にすっかり定着し、当たり前のものになっていた。

ところがここ数年、SNSで年始の挨拶をする人が急増してきたのには、SNSのメリットがあるからに違いない。
考えられるメリットとしては、

  1. 無料で送ることができる
  2. 相手の住所を知らなくても送ることができる
  3. 準備が不要。元旦に「おめでとう」と打ち込むだけ
  4. メッセージの交換ができ、年賀状より密なコミュニケーションが図れる

というものだ。
何より「無料」である。しかも面倒臭い準備は不要。
元旦に「あけおめ!」と打てば終わりの手軽さ。

さらに手厳しい意見として「表も裏も、全て印刷されて手書きのメッセージもない年賀状を受け取っても、心に残らないし人の気配を感じない。むしろSNSの方が人の気配を感じて密なコニュニケーションができる」というのもある。

こうしたメリットを考えると、年賀はがきが太刀打ちできるはずもない、と考えてしまう。
でも、紙媒体としての年賀はがきにはメリットもある。
年賀はがきのメリットとしては、

  1. 元旦にポストを開けると束になっている年賀はがきを見るのがワクワクする
  2. 家族全員で回し読みができる
  3. 親戚や上司など、普段SNSでやり取りしていない人に年始の挨拶ができる

などがある。
特に普段SNSで情報交換していない、または情報交換しにくい上司や先生、親戚などに年始の挨拶ができるのは、年賀はがきならではの良さだろう。

SNSは、完全に個人宛のプライベートメッセージに終わってしまい、例えば自分の子供に来たメッセージを読むことはできない。
でも年賀状の場合は家族みんなで読むことができるので、親にとっても年賀はがきの方が子供の交友関係を知る手立てとなるので、良いのではないか?

ただ、SNSでの年始のやり取りの方がはるかに手軽なのは間違いなく、これも時代の要請なのかもしれない。
考えて見ると、SNSやメールのなかった時代は、はがきでしか年始の挨拶ができなかったわけで、コミュニケーションの道具がどんどん進化してきているので、年始の挨拶もそれに合わせて変わってくるのは、当たり前のことなのだ。

印刷業界はライバルを見誤った?

印刷業界にとって、年賀状印刷の市場は様々な異業種のライバルとの戦いを繰り広げてきた市場でもある。
敵は印刷業界内だけではなかったわけだ。

例えばプリンター。
10年以上前から、家庭にはパソコンが普及し、プリンタで年賀状を作る人が増えてきた。
それまではプリントゴッコや手書きで年賀状を作っていた人が、自宅のパソコンとプリンタで年賀状を作れるようになったのだ。

その時の印刷業界の反応は「年賀状はプリンタで作る時代になった。印刷会社に頼む人はいなくなるんじゃないか?」と戦々恐々としていたものだ。

ところが蓋を開けて見ると、プリンタによって年賀状印刷の市場が大きく食われることはなかった。
もちろん、プリンタで作る人の割合は増えたのだが、大きすぎる規模の市場なため、さしたる影響は受けなかったのだ。

その上、「プリンタで印刷するとインク代が高いし、プリンタの前に張り付いていないといけないので、余計に大変だ」「そもそも、自分でデザインができない」という人もいて、それらの人は印刷会社に年賀状を頼むという流れになっていた。

年賀状印刷はネットでの通販が主流となり、急成長を遂げてきたのだ。
しかしそれも「はがき」という紙媒体に印刷する、という前提があってのこと。

プリンタも、コンビニで販売されている年賀はがきも、印刷会社が受注する年賀状印刷も、全ては「はがき」があってこそである。

印刷業界は案外視野が狭く、紙媒体を通してしか市場動向を見ない。
プリンタが敵だ!といって騒いでも、紙媒体に印刷するという行動は同じであり、年賀はがき印刷のパイを取り合う戦いをするだけだった。

ところがここにきてSNSの台頭である。
まさか年賀状印刷のライバルが、SNSになろうとは誰も想像していなかったのではないか。

しかも年賀はがきという市場を根こそぎ変えてしまうほどの力を、この新しいメディアは持っている。
コミュニケーションの形態がすでに変わったのだ。

今後、印刷業界も年賀状印刷に依存する体制を取っていると、手痛い目にあうかもしれない。
2018年からは、年賀はがきも1枚62円になる。
そうしたことも、年賀はがき離れを加速させる要因になるかもしれない。