印刷のシェアリングエコノミーという業態

印刷のシェアリング 印刷

数年前に「シェアリングエコノミー」という言葉かあちこちで使われていた。

シェアリングエコノミーとは、「モノ」や「サービス」などの交換・共有によって成り立つ経済のこと。
例えばタクシー。スマホを利用して近くにいるドライバーを呼び出せるという仕組みで、代表的なサイトがUBERだ。

UBERに登録をすると、シェアリングエコノミーを利用できるから、空走が多いタクシー会社にとっては朗報になる。

そのほか、空室を使用するサービスや、レンタルスペース、駐車場など、シェアリングエコノミーによって参加企業と顧客、そしてサービス提供側がウィンウィンになる関係が築ける。

印刷業界に一石を投じた、ラクスルのビジネス

さて、そんなシェアリングエコノミーで印刷業界に参入してきたのが「ラクスル」だ。

ラクスルは、全国の印刷会社を束ねてネットワーク化し、空いている印刷機を有効に回すことで、安価で印刷できる仕組みを構築した。

長引く不況は印刷業界にとっても深刻で、しかも印刷業界は一時的な不況というよりは構造的な不況に悩んでいる。

その原因はネットの普及で情報が簡単に、しかも無料(または非常に安価)で手に入るようになった。
インターネットによって既存メディア(雑誌)が売れなくなり、新聞も売れなくなり、新聞に付随するチラシ印刷の需要も減り、印刷業界はついに斜陽産業化してしまっている。

全国の印刷業者の稼働率は、実に5割を切っているのが実情だ。しかもその印刷機は1億円以上もする高価な機械。
印刷会社経営者の誰もが考えることは「印刷機の稼働率を上げる」ことだ。

そのため、原価ギリギリ、いや、原価割れの仕事でも「印刷機を回すために」受注をする。
そのせいで印刷価格が下落し、自分で自分の首を締めるという状況になっている。

そんな悩める全国の印刷会社にとって、ラクスルが始めた印刷のシェアリングエコノミーは、まさに渡りに船だった。
中小の印刷会社は営業力を持たないところもあるので、ラクスルが受注してくれ、仕事を回してくれるのは大変ありがたい仕組みなのだ。

熾烈な価格競争を勝ち抜けられるか?

かくしてラクスルは印刷のネット通販市場の中で急成長を遂げてきた。
今や、ネット印刷通販の最大手であるプリントパックやグラフィックにも迫る勢いだ。

しかしそんなラクスルにも弱点はある。自社で印刷機を持たないというビジネスは、一見すると身軽なように見えるが、当然利益率は低くなる。
自社に印刷設備を持つプリントパックとの価格競争に打ち勝てなければ、途端に苦しくなるのだ。

ラクスルの累積赤字は約50億円とも言われている。当面の資金繰りは問題ないらしいのだが、かなりの先行投資ペースであることに間違いはない。
プリントパックなどの大手と価格競争をして負けるようなことがあれば、赤字先行のラクスルにとっては厳しい戦いになるだろう。

傾きつつある印刷業界の中で、まるで別世界のように急成長を遂げているのが「印刷通販」の世界。
同じ印刷業界でありながら、印刷通販だけが急成長を遂げているという、なんとも歪な構造ではあるのだが、印刷会社が見出した未来への光明である。

しかしその印刷通販も最近では、極端な価格競争に陥りつつある。
「印刷機を回すため」という目的で自分たちの首をしめてしまった轍を踏まないようにしたいものだ。