顧客台帳の大切さを改めて考える

顧客台帳 ビジネス全般

江戸時代の商人が一番大切にしていたのが「顧客台帳」だ。
「火事と喧嘩は江戸の華」と言われていたように、江戸の町は火事が多かった。
そのため、いざ火事になると江戸の商人たちは真っ先に顧客台帳を取り出し、焼けないように井戸に放り込んだという。
水に濡れても文字が滲まないように、特殊な用紙を使うという念の入りようだ。

商売にとって「顧客台帳」ほど大切なものはないという証左だろう。
たとえ店が燃えても、商品が燃えても、顧客台帳さえあれば、商売は継続できる。
一から顧客を開拓せずとも済むわけだ。
江戸時代の商人も、新規顧客開拓より、既存客へアプローチしてリピート注文してもらう方が、経費がかからず、利益になるということを知っていたということだ。

さて、平成の現代。
ベネッセの顧客情報流出が大きな問題になっている。
顧客情報の管理を委託されている会社の契約社員が、名簿業者に売り渡したらしい。
しかもその顧客情報は、名簿業者からソフトウエア大手のジャストシステムに渡り、利用していたとのこと。
ジャストシステムは、当然事の経緯を知らなかっただろうし、罪はないと思うのだが、名簿業者というのは独自に顧客情報を収集するよりは、どこかから情報を買い取る方が楽なわけで、すべての名簿業者とは言わないが、こうした悪質な業者もいるということだ。

そもそも、大切な顧客情報の管理を他に委託するのも危機意識を疑われるし、契約社員が顧客情報にリーチできるのにも驚いた。

イベントなど、多大な経費をかけてコツコツ集めた顧客情報。
江戸時代とは違い、顧客台帳は1冊ではない。デジタルデータとして、無限に複製、流通されてしまうのだ。
それも一瞬で。
これほど怖いことはない。

この事件は、すべての企業にとって対岸の火事では済まされない。
今一度、自分たちの大切な顧客情報が、どのように厳重に管理されているのか、また流出の恐れがあった場合に、どのように対処するのか、足元を見つめなおすいいきっかけになるのではと思う。

火事の時に、顧客台帳を抱え、一目散に井戸に向かった江戸商人の危機管理から、学ぶ事は多いと思う。